この記事と次の ガロア群の例 では, 体の自己同型写像 で勉強したガロア拡大とガロア群について,もう少し理解を深めることを目的とします.目新しい概念は出てきませんが,役に立つ定理を幾つか考えます.また,ここまでに既習の事柄も,このあたりで一度頭の整理をしてみて下さい.
ガロア群の元を求める際に,次の定理が便利です.
Important
を の素数乗根 ( は素数)とします.有理数体 に を添加してできる拡大体 に対し,ガロア群は整数の剰余群と同型となり, がなりたちます
proof
いま は素数としていますので,剰余群 は 次の巡回群 になります. を考えると, は の解ですが,この方程式は 上既約で, 上には解を持たず,体 は の最小分解体 になっており,拡大次数は です.よって定理が成り立ちます.■
ここまでに,ガロア拡大とは『 の拡大体 が, の 上自己同型写像群 が を固定体とし, の場合』と定義しました.この定義は分かりやすいものですが,全く同値な定義に言い換えることも出来ます.
【ガロア拡大の定義】
これらが同値な条件であることは,以下に証明します.場合に応じて,分かりやすい定義を使えば良いと思います.二番目の定義を最初に挙げる教科書が多いようです. の証明は 体の元の共役と正規拡大体 で示してありますので,ここでは の証明を示します.
proof
( ⇒ ) の任意の元 に対し, の最小多項式が重解を持たず,かつ 上で一次式の積に分解できることを示せばよいわけです. は有限群ですので, の元の中で相異なるものを集めた集合 を考えます . の任意の元 にたいし,この集合の元による写像を と書き,多項式 を考えます.まず各 は全て異なるので, は重解を持ちません.また, を展開した際の係数は全て の和と積で表現されますが,これらは固定体 の元になっているはずです.これより, の 上の最小多項式 ( とは限りません)は を割るので, は重解を持ちません.よって は 上一次式の積に分解できます.これより, は の分離正規拡大体になっています.■
ガロア拡大の表現には,他にも色々なものがあり,教科書によって取り上げ方が様々だと思います.例えば,次の二つの条件が成り立つことも, が のガロア拡大であることと同値であることを示すことが出来ます.
【補足】
後で使う都合上, だけ,簡単に証明しておきます.あまり,証明の細かいところにはまらずに,結果だけ了承して先に進んでも良いと思います.
proof
まず必要条件を証明します. が のガロア拡大だとすれば,ガロア群を のように決めることができ, に対し が言えます.これらの中から, 個を選んで,多項式 を作ると, の係数は によって動かされませんから(ガロア群の元は を置換するだけなので), は 上の多項式だいうことが出来ます.ここで を解とする 上既約な多項式 を考えると( 次多項式とします), より, は を割るはずですが, の最小分解体が なので, の最小分解体も になり,既約という仮定より, の解は全て異なるはずです.■
proof
次に十分条件を示します. と書け, とします.いま, の最小分解多項式は 個の解持つはずですので,それを とすると,拡大体 は,全てのの に対して を満たし,結局 が言えます.ここで,写像 を と定義すると, は を 上のベクトル空間とみたときの基底になっており, 上の多項式 に対して が成り立ちます.これより, は を固定体とする の自己同型写像だということが出来て, は のガロア拡大だと言えます.■
は のガロア拡大ではありません. の任意の元は の形に書けますが, の共役元である ( は の三乗根で とします)を含まないため,正規拡大にはなっていないからです.